会長挨拶

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2025年6月、井上登志仁会長のあとを継ぎ、国際船員労務協会第10代目会長に就任しました綾 清隆でございます。

現在の世界情勢は、各地で地政学的リスクが飽和状態となり、その末に紛争解決の手段として武力が行使されることが現実化しています。 ロシアがウクライナに侵攻する、またイスラエル・米国~イラン間で互いに軍事行動がとられている現状を、数年前に誰が予想できたでしょうか?
それに伴い海上物流の要衝であるアデン湾・紅海の航行再開の目途はいまだに立ち難く、健全な世界経済活動にも大きな影を落としています。
世界を舞台に展開する外航海運業界は、このような世界情勢の変化、とりわけ戦乱勃発が及ぼす影響を避けることはできません。 それは本船の運航や顧客へのサービス等に対する影響に止まらず、場合によっては船員や企業の駐在員やその家族の生命が危険に晒され、 更にその延長線上では、外航船に乗組む船員の職離れまで予想されます。

当協会は、変化する世界情勢とその影響を睨みながら、会員会社やその船員が直面している問題の解決に向けて、引続き微力ながらも力を尽くす所存です。 その対応にあたっては、日本だけではなく、関係各国の関連業界団体や労働組合、場合によっては政府の関連機関等のご理解とご協力が不可欠であり、 今後も意思疎通や必要な情報交換等を継続していきます。また、そうした活動から得た有益な情報は、会員各社とタイムリーに共有することを旨といたします。

当協会の活動は、大きく分けて二つあります。
一つは、日本商船隊のFOC船(便宜置籍船)に乗組む外国人船員の労働条件を整備するために、IBF(International Bargaining Forum)の枠組みの中で 国際運輸労連(ITF)およびその加盟労働組合と交渉を行うことです。
もう一つは、その交渉で合意された賃金タリフの一部を構成する基金を利用して外国人船員のための教育訓練や福利厚生の向上を図ることです。

IBF労働協約の改定交渉および労使で管理する基金を用いた教育訓練や福利厚生に関する取組みは、それが「世界各地の有能な船員を確保し、 究極的には日本商船隊に船員をひきつけ、ひいては安全運航の確保に繋げたい」という思いが根底にあります。
IBF労働協約関連の交渉に於いては、引続き賃金だけではなく、その他の労働諸条件についても、船主の立場も踏まえつつ、 各国船員から見ても納得感があり、且つ受容可能であることも意識しながら交渉に臨む所存です。

ここで、上記教育訓練への取組みの切り口としては、会員会社からのニーズに基づいて有効且つ効率的であるものを、 同メンバーに対する公平性を保ちつつ提供することを礎に、また福利厚生に関しましては、全日本海員組合他の理解と協力を得ながら拡充を推進し、 相まって、優秀な各国船員の確保と安全運航の維持・強化に貢献していく所存です。

これまで同様、会員からのニーズに迅速に応えることができるよう、透明性と公平性をモットーに柔軟かつスピード感を持って対応して参る所存ですので、 今後とも皆様のご理解、ご支援並びにご協力を頂ければ幸いです。

国際船員労務協会 会長 綾 清隆